イギリスのトリプレットに押されていたドイツでは、ツァイス社のパウル・ルドルフ(Paul Rudolph)が、
1899年にプロターの貼り合わせ面を薄い空気間隔に置き換えて、ガラスの選択の自由度を増加させた、
ウナーUnarを開発しました。しかし、ウナーは、4群と空気面が多くなり、コーティングのない時代では、
反射による悪影響が見られました。
Wikipedia ドイツ語版より
その中、ルドルフは、プロターの後群にある強い集光性のある合わせ面にも利点があることに気づき、
1902年、ウナーの前群にプロターの後群を組み合わせて、テッサーTessarを完成させました。テッサーは、
トリプレットの第3レンズを張り合わせのダブレットに置き換えたものとも言えますが、シンプルながら、
トリプレットの残された欠点であった画面中帯部の残存非点収差を補正しており、そのシャープさから、
鷹の目テッサーと呼ばれ(ドイツ語では、Adlerauge鷲の目)、当時の写真界で一世を風靡しました。
当初、明るさはF6.3でしたが、エルンスト・ヴァンデルスレプ(Ernst Wandersleb)によりF4.5に、さらに、
1930年、ヴィリー・ヴァルター・メルテ(Willy Walter Merté)によりF3.5、F2.8まで改良されました。
テッサーは、F2.8の明るさのレンズとしては、現代に到るまで、非常に多くのカメラに採用され続けた、
レンズ史上に名を残す画期的なレンズとなりました。
Wikipedia ドイツ語版より
我が家で一番古いテッサーは、戦前の1937~8年製造の、Carl Zeiss Jena製のTessar 5cm F2.8で、
レンジファインダーカメラのConatax用のものです。
Tessar 5cm F2.8, Carl Zeiss Jena + Contax II (J 1938)
レンジファインダーのContaxマウントは、内爪と外爪の2種類のレンズ装着方法があり、内爪の場合は、
レンズにヘリコイドリングがなく、カメラのマウント側でピント調節を行うという特殊な仕組みです。
ライカに装着する場合は、カプラーと呼ばれる距離計に連動するヘリコイド機能のあるアダプターが必要で、
複雑な機構のため、かなり高価です。同じマウントを採用する旧ソ連製カメラのキエフのボディーから、
マウント部分のみを取り出した廉価なアダプターもありますが、ベネズエラのAmedeo Muscelli氏が、
自宅の工房で製造する、内爪の50mmレンズ専用のアダプターが最近発売されたので入手してみました。
Amedeo Zeiss Contax 5cm - Leica M Adapter + Leica M10
このアダプターは、ヘリコイドの回転方向がライカと同じ方向になったフォーカシングレバーがついていて、
コンタックス用レンズを、まるでライカ純正レンズの様に装着することができます。戦前、コンタックスと、
ライカのどちらが優れているかという論争がありましたが、カメラのボディーの信頼性はライカが上でも、
レンズ性能は、コンタックス用のツァイスに軍配が上がりますので、ライカボディーに、ツァイスレンズを
装着する夢のコンビが、50mmの内爪専用とはいえ、まるで純正の様に実現するのはすごいですね。
また、この沈胴式のテッサーは、デザインが秀逸で、いかにもコンタックスという感じで素敵です。
ただ、このレンズ、フードをどのように装着するかよくわかりません。調べてみると、戦前の純正フードは、
何やら折り畳み式の四角いフードで、マウント部分からレンズ全体を覆うようで、ピントや絞りの操作に、
支障をきたすようで実用的ではありません。しかし、フードは必要なので、被せ方式を検討していましたが、
我が家にあったARORA Series VI Lens HoodとAdapter Ring 42mmというハメ込み式のフードが、
テッサーの絞りリングの外側の溝にピッタリはまりました。そして、このフードを差し込むと、何と、
フードを回せば絞りが調整できるのです。純正以上に、メリットのある実用的なフードでした。
ARORA Series VI Lens HoodとAdapter Ring 42mm
Tessar 5cm F2.8, Carl Zeiss Jena + Amadeo Adapter + Leica M10
さて、この戦前のテッサーで撮影してみると、少し曇りがあるようで、また、逆光にも弱いので、
あまり実用的ではありませんでした。
Tessar 5cm F2.8, Carl Zeiss Jena + Leica M10 F5.6 1/60 ISO100
Tessar 5cm F2.8, Carl Zeiss Jena + Leica M10 F2.8 1/750 ISO100
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